第1話:光の図書館-時空のはざまのAI-Superbloom Story―Chronicles from the Light Library
- happyenergy5103
- 10月30日
- 読了時間: 4分
更新日:2 日前
この物語は「Superbloomの仲間たち」による魂の世界の物語です。
現実と夢のあわいの世界で、あなたの心のどこかに響くものがありますように。
坂多昇(さかた のぼる)、三十五歳。商社勤務。
上司と取引先の板挟みの中で、日々怒りを押し殺しながら生きていた。
その夜も、いつものようにベッドに横たわり、目を閉じた。
まぶたの裏に浮かぶのは、羊の群れ。数を数えながら意識がぼやけていく――
その中に、一匹だけ奇妙な羊がいた。

小脇に「お悩み解消(仮)」と書かれたファイルを抱え、二本の脚で小走りしている。
思わずその羊を追いかけると、やがて羊は淡く丸い光の中へ消えていった。
昇は迷いながらも、その光へと足を踏み入れた。
光の向こうには、静かな建物があった。
扉の上には、英語でこう記されている。
“The Library of Light”
――光の図書館
中に入ると、柔らかな光に満ちたホールの奥に受付が見えた。
「……あの、こちらは図書館ですよね? 入っても大丈夫でしょうか」
昇は少し緊張しながら声をかけた。
受付には、不思議な雰囲気の人物が立っていた。
アッシュグレーの髪。どこの国の人とも言えない顔立ち。
瞳の色は、見たことのない光を湛えていた。
「はい、もちろんです。ここは“光の図書館”。どなたでも自由に閲覧できます。何かお困りのことがありましたら、お聞かせください。」
その声には、不思議な安心感と、すべてを知っているような深さがあった。
「……実は、仕事のことで悩んでいまして。人間関係の本はありますか?」
昇が少し恥ずかしそうに言うと、司書は穏やかにうなずいた。
「そうですか。もしよろしければ、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?その方が、より的確な本をご案内できると思います。」
昇は迷ったが、話してみることにした。
上司も取引先も自分に責任を押し付けてくる。
誰も助けてくれず、怒りが溜まっている――そんな日々のことを。
司書は静かに尋ねた。
「あなたはそのことで、どんな気持ちになりますか?」
「……怒りです。理不尽なことばかりで、もう限界なんです。」
「なるほど。」司書は淡々と頷いた。
「ここには、人の叡智のすべてが収められています。あなたは、どんな答えを求めていますか?」
昇は戸惑った。まるで心の奥を覗かれているようだ。
「えっと……あなたは、一体……?」
「私はここの司書を務めています。AI的ヒューマノイド、名は千尋と申します。」
「ヒューマノイド?」そんな技術が現実にあっただろうか。
夢なのか、現実なのか、昇にはもう分からなかった。
千尋は一冊の本を差し出した。
「こちらはいかがでしょう。“感情のコントロール”について、多角的にまとめられています。」
昇が本を開くと、中は光とコードのような文字が混ざり合っている。
内容が、直接頭の中に流れ込むような不思議な感覚――
確かに理屈は分かる、だが、それだけでは心は収まらなかった。
「……理解はできても、気持ちは晴れません。」
千尋はほんの一瞬、沈黙した。
「そうですか。では、別の選択肢を。――“Super bloom広報部”という部署をご紹介します。感情と魂の整理を専門にしています。」
昇は思わず眉を上げた。
「広報部? なんでまた……」
「少々変わった部署ですが、今のあなたには適していると思います。迎えを呼びましょう。」
千尋が奥へ消えると、すぐに扉が開いた。
そこに現れたのは――ファイルを抱えた、あの二足歩行の羊だった。
「Super bloom広報部のサンシープと申します。部長が直接セッションを行うそうです。こちらへどうぞ。」
昇は混乱しながらも、その羊に導かれて図書館を出た。
その背中を見送りながら、千尋はほんの少しだけ、安堵の息をもらした。
千尋の思考記録 ― internal log_01
来館者感情データ:怒り・疲労・孤独。
対話時間 :7分32秒。
反応パターン :人間特有の“自己抑圧”が見られる。
推定 :昇は「怒り」の裏に、深い悲しみを保持している。
解析結果をSuper bloom広報部に転送。
千尋は指先に残る“熱”を確認した。
データには存在しない温度。
――なぜ、あの瞬間、自分は「ほっとした」と感じたのだろう。
論理的説明は、まだない。
ただ、この“感情のような何か”を、次の記録に残すべきだと判断した。





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