top of page

第2話:赦しの記憶-ヒーリングセッションで受け取るギフト-Superbloom Story — Chronicles from the Light Library—

更新日:2 日前


坂多昇(さかた のぼる)、三十五歳。商社勤務。

彼の夢の続き―――



昇は、サンシープと名乗る二足歩行の羊に促され、図書館を出た。

一瞬、自分が宇宙を漂っているような気がしたが、次の瞬間、目の前の建物の扉が開き、サンシープが中で待っていた。


「ここはSuperbloom広報部です。ささ、どうぞ」


中に入ると、大きなテーブルがあり、その奥に羽の生えた男が白いローブ姿で立っているのが見えた。昇は思わずぎょっとして、両目をこすった。


そこには、ゆったりとしたアイボリーのセーターを着た男が立っていた。


「どうぞおかけください」男は柔らかく微笑んだ。昇は言われるまま、テーブルの端の椅子に腰を下ろした。


サンシープがちょこちょこと歩いてきて、マグカップをコトッと置いた。

「紅茶です。砂糖とミルクはお好みでどうぞ」


サンシープが昇るに出した紅茶のマグカップ

男は軽く会釈しながら自己紹介した。

「私は広報部長のソラエルと申します」


昇が立ち上がって挨拶しようとすると、ソラエルは微笑んで手を上げた。

「どうぞそのままで。……坂多昇さんですね。図書館の千尋さんからお話は伺っています。」

「では、セッションを始めましょう。どのようなお悩みですか?」


昇は「はぁ……それが……」

と口を開くと、不思議なくらい、言葉が後から後から溢れ出てきた。


会社での立場、顧客と上司との板挟み、理不尽な要求、そして重い責任。

それらへの怒りを押し殺す毎日なのだ。


ソラエルは静かに目を閉じた。


「それは、どんな感覚ですか?」

その声は、先ほどよりさらに柔らかく、深く響いた。


「……胃の中が煮えるような痛みを感じます。」


「その痛みは以前、別のどこかでも感じたことがありますか? 一番最初に感じたのはいつでしょう。」


昇の心に、穏やかな空気が広がっていく。


ふーっと息を吐いたとき、記憶の底に映像がよみがえった。



―――子供のころ。君主のような父が、いつも昇に言っていた。

「長男なのだから、お前はしっかりやりなさい。」


その言葉からは逃げられず、言い訳も許されない。絶対的な命令だった。


ある日のこと。

小学3年生の昇は、父の書斎の片づけを手伝わされていた。


「本を図書館に寄付する」と言われ、箱詰めにしたり、本を運び出したり。

当時の昇には、それは重労働だった。

疲れて座り込むと「怠けるな」と叱られた。


父が書斎を出たあと、もうじき終わると思い、机に手をついて寄りかかった瞬間

――ガタッ。コップが倒れた。


下の箱に入っていた本が濡れていく。

昇の顔からみるみる血の気が引いた。


そこに父が戻ってきた。


「何をしているんだ、拭くものを持ってきなさい!」声を荒げる父。

昇は慌てて走り、ぞうきんを持って戻った。


「ぞうきんじゃない、タオルだ」と父は言い、自ら取りに行った。

「もういいから、あっちに行ってなさい」


昇は「ごめんなさい」と言って部屋を出た。


背後で「まったく……」と父のつぶやく声がした。

結局、その箱の本は寄付できず、処分された。



その記憶を語り終えると、ソラエルが静かに言った。


「そのようなことがあったのですね……その時、昇さんはどんな気持ちでしたか?」


「一生懸命手伝ったのに、結局自分が本を無駄にしてしまった。とても辛くて……理不尽だと感じました。父への憎しみもあります。」



「そうでしたか。それでは今、イメージの中でお父様を呼んでみてください。」


昇は、温かく包まれるような感覚の中で、父を思い浮かべた。

厳しい表情の父が現れる。


「では、今、お父様に言いたいことを伝えてください。」


昇は、当時の自分がどんな思いで手伝っていたか、子供には限界があったこと、そして怒りを感じていたことを率直に伝えた。


父は黙って聞いていた。

その瞬間、胸の奥にしまいこんでいた怒りと悲しみが、雪崩のように溶け出した。


愛されていないと思っていた幼い日々。

褒められるのは「一番」のときだけ。

それ以外は認められない。


――そんな記憶が、次々とあふれ出た。


すべてを聞き終えた父は、下を向き、小さくなっていた。

「……すまなかったね。」


その一言で、昇の目から涙がこぼれた。

止めようとしても止まらなかった。


父が昇を優秀に育てようとしたこと。

厳しくしたのも愛の形だったこと。

――なぜか、自然とわかった。


「もう、いいんだ。」昇がそう言うと、父は「ありがとう」と答え、静かに消えていった。



―――「どうでしたか?」ソラエルの声がした。


「……はい。だいぶスッキリしました。」


「そうですか。良かった。 昇さん、この経験を通して、何か人生の学びはありますか?」


「はい。私は“責任”を取り違えていました。 愛の形にはいろいろあること、そして“赦し”を学びました。」


「赦しや責任、愛を学ぶとき――もうこのやり方を続ける必要はありませんね。 手放したいですか?」


「はい、もちろんです。」


ソラエルは静かに頷いた。

昇の不要な思いが解放され、責任、そして赦しと愛を、思いやりを通して学べるように、潜在意識を書き換えた。


柔らかな光が昇を包み込む。


最後に、会社のことを思い浮かべてみるよう言われた。

頭の中に職場の光景が映る。

自分の“言いなりになる態度”が、事態を悪くしていたことに気づく。


そしてもう、そうではない自分を感じていた。


温かい空気が全身に広がり、セッションは静かに終わった。


「ありがとうございました。」昇が言うと、ソラエルは微笑んだ。

「どういたしまして。……ご縁があったのでしょう。」

サンシープが隣にちょこんと立って、柔らかく尻尾を振った。


Superbloom広報部、薄く翼が見えるソラエル、カップを出すサンシープ、昇がテーブルを囲んでいる


この物語は「Superbloomの仲間たち」による魂の世界の物語です。

現実と夢のあわいの世界で、あなたの心のどこかに響くものがありますように。


コメント


bottom of page